受賞作品展⽰ 作⽂部⾨
令和5年度(第60回)受賞作品
全国都道府県教育長協議会会長賞
虫さんの生きるみちとぼくのねがい
愛知県 岡崎市立北野小学校 2年
穴井 羚
「じいじ、行くよ。」
ぼくは、お休みが大すきだ。学校でみんなとあそぶのもたのしいけれど、お休みはとくべつたのしいことがある。
「おかあさん、朝だよ。」
長そでと長ズボンにきがえ、ぼうしをかぶる。すいとうをぶら下げて、しゅっぱつのじゅんびかんりょう。車で少しはしったら、ぼくの行くこうえんがある。
ぼくは、いろいろな虫がすきだけど、とくにくわがたが大すきだ。くぬぎの木、コナラの木を中心に、じゅえきのある木をめぐって行く。家から少しはなれた森で、ミヤマクワガタがとれると聞いて、お休みの日にさっそく行くことにした。
「あっ、まって。あそこに何かいる。」
じいじが手をのばすと、あみには入らず、下におちた。ぼくがあわててつかまえると、
「うおー、オスのミヤマのマーくんだ。とうとう見つけたぞ。」
いそいでマーくんをかごに入れて家にかえった。
「すごい、きょうはさいこうの日だ。」
かわいた土に水をかけると、あごをあげてかかってこいのポーズをする、キーパーポーズだ。そのすがたは、かっこいい。頭をなでると、かまえなおしてぼくを見る。シャツにマーくんをつけると、びっくりしてとまっていたが、ゆっくりあるきだした。ぼくは、木のようにじっとしていると、どんどん上にのぼり、くびにくるとくすぐったくて、わらいそうになった。がんばって頭あたりまできたマーくんは、へんな木だなと思ったのかな。でも、ぼくはたのしくて、マーくんのこと大すきになった。
虫とりに行くと、いつもじけんがおきる。ある日の朝、いつものこうえんにでかけると、マレットゴルフをしているおじいさんが、
「おはよう。今日はなんかとれたか。ちょっとこっちにおいで。なかなか見られないものが見られるよ。」
「うわー、カナヘビだ。かわいい。」
おじいさんがゆびさす方をよく見てみると、カナヘビがウマオイを今にもたべようとしているところだった。体の長さは、カナヘビが三ばいくらいあるが、はばはどちらも同じくらいだった。
「だいじょうぶかな。ウマオイたべられちゃう。」
ウマオイのうごきがとまり、カナへビの口の中に少しずつ入っていくのを、ぼくは、かわいそうで見ていられなかった。ウマオイのことで、ぼくの頭の中はいっぱいになった。
しぜんの中ではあたり前におこること。たべたり、たべられたり、本とうは見たくないようすをはじめて見た。そして、ウマオイをたすけてあげたいとおもった。いっしょにいたおかあさんが、
「かわいそうだけど、れいくん。ウマオイのいのちをもらって、カナヘビも生きられるんだね。」
と、かなしそうなかおで言った。ウマオイのことを思ったら、おへそのあたりがもやもやして、なんとも言えない気もちになった。
よる、ふとんの中で、けむりになってお空にのぼっていったおじいちゃんを思い出した。けむりになると見えなくなるのでさみしい。ウマオイもけむりになって空へ…。そう思うと、かなしくてなみだが出てきた。
ぼくには家ぞくがいて、まもられながら生活している。みんなのいのちはたいせつだ。今のぼくには、それしか分からない。でも、元気にうごいて、たのしそうにしている虫さんがすきだし、見ていてうれしい。ぼくが大すきな虫さんのためにできること、きっとたくさんあると思うし、それを考えていく。
「だから、これからもたのしくぼくとあそぼうね。虫さん。」