モンテッソーリ教育の基本的な考え方

モンテッソーリ教育の基本的な考え方

モンテッソーリ教育は子どもを観察することによって見出された事実に基づく科学的な教育法です。その基本的な考え方は「子どもには生来、自立・発達していこうとする力(自己教育力)があり、その力が発揮されるためには発達に見合った環境(物的環境・人的環境)」が必要である」というものです。大人がすべきことは、子どもに教え込むことではありません。子どもの発達がどのような形ですすんでいくかを知り、子どもを観察し、環境を整えることです。

子どもの内なる力~「自己教育力」と「敏感期」について

赤ちゃんは誰に教わるでもなく、さまざまなことができるようになります。最初はよく見えていなかった目が何かをじっとみつめるようになり、また、腕を伸ばして何かをつかんだりもするようになります。そのうちに歩いたり、言葉を話したりしはじめます。決して、大人が教え込んでそれらの発達を遂げさせるのではありません。つまり、自立や発達の原動力は子ども自身に内在しています。それがマリア・モンテッソーリの着目した「自己教育力」です。
「自己教育力」により、子どもはそれぞれの必要な時期に、自分自身に課せられた発達の課題ともいうべきものに取り組んでいきます。それを具体的に現わしているのが「敏感期」です。「敏感期」とは乳幼児期に現れる、ある特定の事柄に対する強い感受性のことであり、この時期に適切な環境があれば、子どもはいとも簡単にその事柄を吸収します。 
言語の敏感期、秩序の敏感期、運動の敏感期など乳幼児期には様々な敏感期があらわれます。この時期の子どもの行動は、強い衝動を伴って何度も繰り返されるため、大人にとっては単なるいたずらや困ったことに見えるかもしれません。いつもと違う道を行こうとすると大泣きしたり、ティッシュペーパーを全部出してしまったり、公園の水道で辺りを水浸しにしてしまったり・・・。
敏感期にはどのようなものがあり、どのような形で現れるのかを周りの大人が知っておくことは、子どもの発達をサポートする上で非常に大事なことです。子どもの行動にそれぞれ重要な意味があることを知ることは、子どもに関わる大人に感動と喜びをも与えてくれます。

環境の重要性

子どもは「自己教育力」によっておのずから成長・発達していきますが、それにはその力を発揮する対象としての環境が必要です。「敏感期」に見合った環境が存在すれば、子どもは自発的に活動し、その活動を何度も繰り返すことによって自分の発達課題をクリアしていきます。

モンテッソーリ教育では、子どもの敏感期に見合った環境を用意するためにさまざまな用具や教具があります。自発的な活動をうながすため、サイズや素材、数など様々な点で考慮されているものです。また、状況に応じて手作りする場合もあります。環境を整える際には子どもが自分で活動を選んだり、作業をしたりしやすいように配慮する必要があります。

大人の役割とは

モンテッソーリ教育では、大人の役割を、大人の価値観で一方的に教え込むことではなく、「子どもを正しく理解」し、「適切な環境を用意」し、「子どもと環境を結び付けるように援助する」こととしています。
マリア・モンテッソーリは、子どもを正しく理解するためには「大人と子どもは違う」ことをまず認識することが大切であると考えました。大人と子どもは身体の形やバランスをはじめ、行動の目的や価値観などにも大きな違いがあります。例えば「歩く」ということでも、大人は目的地へ行くために歩きますが、子どもは「歩く」ことそのものを目的としています。目的地に着くことは目指していません。大人はその違いを理解していないと、子どもに無理な要求をしたり、育つ力を妨害してしまったりします。
また、子どもは自分の言いたいことを充分に表現できません。だからこそ、大人は子どもの行動をじっくりと観察し、今その子に何が必要なのかを読み取り、援助する方法を探らなければなりません。
子どもを取り巻くすべてが環境ですが、環境を構成する要素としては「人的環境」と「物的環境」があります。物的環境が整えられても、それとの関わり方が分からなければ、子どもの自己教育力は充分に発揮されません。私達大人は人的環境として、まずは子どもを全面的に受容しながら、子どもの自己教育力が物的環境に注がれるように、子どもと物的環境との橋渡しをする役割を務める必要があります。モンテッソーリ教育では、環境の中にある物の使い方を子どもに分かりやすく示すことを「提示」といいます。「提示」により、子どもの中に「やってみたい」「一人でできる」といった気持ちが芽生えます。

モンテッソーリ教師の実践上の心得12条

モンテッソーリは、モンテッソーリ教育の現場の教師のために、「モンテッソーリ教師の実践上の心得12条」を伝えてくれています。モンテッソーリ教師が、一般に言われている先生とは違う存在であることが分かります。

1.環境の整備
2.教具・教材をはっきり正確に提示する~子どもが仕事をはじめるとき
3.子どもが環境との交流をもち始めるまでは積極的に、交流が始まったら消極的に接する
4.物を探している子どもや、助けの必要な子どもの忍耐の限度を見守る
5.原則として、呼ばれたところに必ず行く
6.子どもに誘われたときは、子どもの要求を、言葉で直接表現されない要求までも含めて、よく聞いてやる
7. 仕事をしている子どもを尊重する
8.間違いはあからさまに訂正しない
9. 休息している子どもには、無理に仕事をさせない
10.作業を拒否する子どもや理解しない子どもは、忍耐強く誘いつづける
11.教師は自分を探す子どもに存在を感じさせる
12. 教師は、仕事を終えた子どものところに姿を現す