受賞作品展⽰ 作⽂部⾨
平成30年度(第55回)受賞作品

※一部表示ができない漢字表記は標準漢字又はひらがな表記してあります

全国連合小学校長会会長賞

夏休みとまつ葉づえ

愛知県 蒲郡市立形原小学校 3年

石川 晴士郎

 「えー!。」
 ぼくとお母さんは、目をまん丸にして、顔を見合わせた。
「うん。こっせつだね。」
 さむいぐらいクーラーのきいたびょういんで、先生がすずしそうに言った。ガーン。ショック。時間が止まったような気がした。お母さんもおどろいて、しばらく何もしゃべらなかった。楽しみにしていた夏休み。はじまったと同時に、ぼくはほねのおれた左足と、ギブス、まつ葉づえとの生活をスタートさせることになった。
 学校で通知表をもらった日のタ方。合しょうだんの練習にいった。その帰り道、ふだんは何も考えずにおりているかいだんで思いっきり転んだ。たった三だんしかないのに。いてて。なみだが出るほどいたかった。でも、明日から夏休み。うれしさでいたい気持ちもふきとんだ。ばかやっちゃったなと思った。でもつぎの日、歩くのがどうしてもいたかったので、お母さんがびょういんへつれていってくれた。びょういんの先生は、
「これで夏休みの作文も書けるし、大じょうぶ。」
と言ったけど、何が大じょうぶなんだろうと思った。それから、びょういんで、まつ葉づえで歩く練習をした。テレビで見たことはあったけど、自分が使うのははじめてだった。バランスがとれなくて、すごくむずかしかった。ぎこちないうごきしかできず自分の体がロボットみたいだった。とてもつかれた。
 家に帰ると、もっと大へんなことがまっていた。うまく立っていられなくて、はブラシにはみがきこをつけることすらできなかった。かいだんを上るためには、おしりをついてすわり、一だん一だん後ろ向きで上らなくてはいけなかった。いつもはいっしゅんでかけ上がっていくかいだんも、けがをしてからは、すごく時間がかかった。家のかいだんってこんなに長いの?と思った。二かいに行くだけであせがぽたぽた落ちてきた。
 よていしていたキャンプも行けなかったし、プールにも行けなくなってしまった。合しょうだんのコンサートにも出られないだろうと思っていた。ぼくは、メゾソプラノのパートで、ステージの一番まん中で歌う。でも、まつ葉づえでは、みんなの歩くスピードについていけずに、めいわくをかけてしまう。そもそもずっと立って歌うことすらできない。その話をしたら。お母さんも同じ考えだった。そこで、先生にお母さんが電話をしてくれた。すると、
「ぜんぜん大じょうぶです。ぜひきてください。」
と先生が言ってくれた。本当に大じょうぶか心ぱいだったけど、ぼくは、コンサートに行った。すると先生がぼくの歌う場所を歩きやすい所にかえてくれたり、いすを用意してくれたりした。歌う前には、
「ほねがおれてても、がんぼれよ。」
と声をかけてくれるお兄さんもいた。コンサートに出る前は、不安な気持ちがいっぱいで、心ぞうがドキドキしていたけれど、みんなのおかけで歌うことができた。うれしかった。
 ぼくは、けがをして、できないことがたくさんふえた。でも、弟が、ぼくがいどうするためにまつ葉づえをもってきてくれたり、妹がはブラシにはみがきこをつけてきてくれたり、たくさん助けてくれた。お店でごはんを食べる時でも、ぼくのけがに気づいていすを持ってきてくれる人もいた。ぼくのまわりには、こんなにもやさしい人がいっぱいいるんだと気づいた。もし、こまっている人がいたら、今度は、ぼくが助けてあげたいと思った。
 けががなおってから、また、あのかいだんをおりた。たった三だん。家ぞくのみんなが見守っていた。ゆっくりしんちょうに。もう大じょうぶ。バイバイまつ葉づえ。

全文を見る