受賞作品展示 作文部門
令和4年度(第59回)受賞作品
全国連合小学校長会会長賞
標準的でなくても、自分らしい六年生に
愛知県 岡崎市立竜美丘小学校 6年
竹田 湊音
身長百三十八センチ、体重二十九キログラム。これは、僕の体型だ。
「君は三年生くらいかな。」
「小さくて、ほっそおい。」
こんな言葉は、もう聞き慣れた。
「六年生って、もう少し大きくないの。」
お世話係として行った一年生の教室でこう言われたときもあった。でも、僕はおこらない。それは、僕が六年生の標準からかけはなれていても、これが今の等身大の僕であることを受け入れているから。
しかし、以前はちがった。言われてうれしい言葉ではなかった。特に、
「小さいのによく食べる。」
「小さいのに生意気だぞ。」
という「小さいのに」は余計な一言だ。
僕だって、大きくなるために努力をしている。まず、好ききらいせず何でも食べること。大好きなからあげと同じくらい、とまではいかないが、きらいなトマトやきのこもきちんと食べる。五年生のとき、ソフトボール部のせんぱいに、
「魚を食ったら大きくなるぞ。」
と教えてもらったので、骨に苦戦しながら食べている。それに、給食のおかわりは常連だ。
それから、よくねる。「ねる子は育つ」という言葉を信じて、一日九時間以上はねている。起きたときは背がのびるように、手足が取れそうになるほどのびをすることも欠かせない。
最後に外で遊ぶこと。部活の大会も近いので、強くなるために太陽を浴びて毎日素ぶりやダッシュをしながらきたえている。
それでも、僕はなかなか大きくならない。いや、大きくはなっている。でも、ふと周りを見わたすと、百五十、百六十センチの子、たくましい体つきで力強い子、声が低くて大人っぽい子。ましてや、僕より年下の子でさえ、見上げるほど大きい子はたくさんいる。周りの友達の大きくなるペースが早くて、僕の成長速度がみんなに追いつかないのだ。
「僕の成長期も早く来ないかな。」
全国の六年生の平均値を調べてみた。身長百四十六・六センチ、体重四十・四キログラム。これを見ると、僕の小ささは一目りょう然だ。この数値があるから、僕は標準的な六年生には入れない。標準とはやっかいだ。
だが、そんな僕にも大きな味方を見つけた。大好きなスポーツアニメのキャラクターが、こんなことを言っていたのだ。
「小さいことは不利な要因であっても、不能の要因ではない。」
僕はしょうげきを受けた。小さいイコールハンデではない。小さいからすごいのではなく、一人の人間としてただすごいんだと、そのキャラクターは主張していた。この言葉を聞いたとき、僕はこぶしを強くにぎり、心の中で自分を応えんしたい気持ちになった。
「そうだそうだ。」
僕は自分の体型にこだわりすぎていたのかもしれない。確かに、小さいことで不利なことはたくさんある。ソフトボールを投げるときもかたの力が足りず、ひきょりがのびない。そうじのときの机運びは、力がなく、人より運ぶ数が少ない。背の高い順で並ぶ運動会では、大きい子のかげにかくれてしまう。だが、小さい分すばしっこさで、とうるいを決めたこともある。教室やろうかのすき間に手を入れて、細かくふきそうじもできる。運動会では人一倍腹から声を出して、全身を使ったおどりでソーラン節を盛り上げることもできた。
小さい僕にできることは、たくさんある。
こうして自信がついてきたある日、僕はいつものように友達と公園でソフトボールの休日特訓をしていた。ノックの練習をしていたとき、ふとしたしゅん間にボールがみんなのグローブからそれて公園を飛び出し、道路の方へ転がっていってしまった。道路には車が走っていて、通りがかった車を運転していた男の人が降りてきた。
やってしまった…。
その場の空気がこおりついた。みんながかたまった。僕の体も動かなかった。体を小さくしてかくれたい気持ちがよぎった。だが、おく底にあった勇気を出し、やっとの思いで声をしぼり出すことができた。
「すみませんでした。」
ひざががたがたふるえ、声も上ずっていた。後ろから同じように謝る友達の声が聞こえ、心強くなった。近くにいた母が飛んできて、一緒に謝ってくれた。僕の声が男の人に届いたかは分からない。ただ、申し訳ない気持ちと、不安な気持ちでいっぱいだったその時間は、スローモーションのように長く感じ、早くこの空気が過ぎ去ることを願っていた。
僕は、やっぱりまだ小さい。見た目だけではない。人との接し方、考える力、いろんな経験を通して成長していく心の大きさも、まだまだ小さい。でも、これがまぎれもない六年生の僕なのだ。そして、きっとこれは背のびしすぎず、僕なりのペースで心も体もゆっくりと成長していくように作られた「自分らしい」体なのだと思う。だから、僕はこう思うことにした。体の小さい今の僕にできることを、自分の強みに変えていこう。そして、たくさんの出来事と向き合いながら、成功と失敗を重ねて体の中に吸収していこう、と。そうしたら、いつか僕は体の小ささなんて気にしない、大きな人間になっているはずだ。
身長百三十八センチ、体重二十九キログラム。これが、六年生の今の僕、竹田湊音だ。